デジタルフォレンジック入門 ~AI時代のサイバーリスク対策~

この記事をおすすめしたい

・『デジタルフォレンジック』を初めて聞いた方
・サイバーセキュリティや企業リスク管理に関心がある方
・社内不正や情報漏洩への対応策を学びたい方

デジタルフォレンジック — 会社に潜む危機を科学的に解明

「うちの会社は大丈夫。」
そう思われていませんか?ランサムウェア攻撃や情報漏洩、内部不正といったデジタル上の危機は、あなたの会社でもいつ発生してもおかしくありません。万が一の事態で、「誰が、何を、いつ行ったのか」その真実を客観的に解き明かす科学的な調査手法のことを『デジタルフォレンジック(Digital Forensics)』と言います。
この章では、この危機管理の切り札が具体的に何をするのかを解説いたします。

◇ デジタルフォレンジックとは?

デジタルフォレンジックは、コンピュータやスマートフォン、クラウドサービスなどのデジタル機器に記録された情報を、犯罪や不正行為の解明に必要な形で収集・解析し、法的に有効な証拠として提示するための科学的手法です。
電子データは、取引履歴、通信記録、操作ログなど多岐にわたり、目に見えない行動の痕跡を明確に残しています。この手法を用いることで、事件や内部不正の経緯を正確に把握でき、関与者の行動やタイミングを客観的に証明することが可能となり、法廷での証拠能力も確保されます。

◇ 活用分野と重要性

デジタルフォレンジックは、サイバー犯罪の捜査にとどまらず、企業内の内部不正調査情報漏洩の追跡訴訟案件での証拠収集など幅広く活用されています。
大量の電子データの中から、通常の手作業では発見が困難な犯罪の痕跡や不正行為の証拠を効率的かつ正確に抽出できるため、調査迅速化精度向上寄与します。
また、データの完全性と信頼性を保ちながら解析でき、法的手続きにおいても確実な証拠として採用され、現代の高度化したサイバー環境において不可欠な技術となっています。

会社員
社員N

デジタルフォレンジックの歴史

「コンピュータやスマートフォンのデータなんて大したことはない!」
現代でそのように考える方は少ないと思いますが、過去数十年で『デジタル情報』は犯罪や不正行為の重要な証拠源となり、法執行機関や企業の調査手法に革命をもたらしました。
この章では、デジタルフォレンジックがどのように誕生し、発展してきたのか、その歴史を紐解きます。

①発祥期:1980年代〜1990年代初頭

デジタルフォレンジックの起源は、1980年代後半から1990年代初頭にかけて、コンピュータ犯罪の増加とともにその重要性が認識され始めました。
特に、1991年にアメリカの連邦捜査局(FBI)がコンピュータ犯罪捜査の専門部門を設立し、専門的な技術と手法の確立に大きく寄与しました。初期の技術は、ハードディスクの解析やログデータの復元が中心であり、これらの技術は犯罪の立証に不可欠な科学的手法として注目されました。これにより、デジタル証拠の収集と解析が法的手続きにおいて重要な役割を果たすことが認識されるようになりました。

②日本での導入と事件への応用:2000年代

日本では、2000年代初頭からインターネットの普及とともにサイバー犯罪増加し、デジタルフォレンジックの重要性が高まりました。
2006年のライブドア事件や2009年の大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件では、電子機器のデータ解析や復元が行われ、捜査や法廷での証拠能力を発揮しました。これらの事件を契機に、デジタル証拠の取り扱いや保全の重要性が広く認識され、企業や法執行機関においてデジタルフォレンジックの専門知識と技術の導入が進みました。
また、2010年代には、デジタルフォレンジックに関するガイドラインや標準化が進められ、より信頼性の高い証拠収集と解析が可能となりました。

③AIとクラウド時代の進化:〜 現在 

近年では、クラウドサービスやモバイル端末、IoTの普及により、解析対象のデータ量が爆発的に増加しています。これに対応するため、AIや機械学習を活用したデータ解析手法が導入され、膨大なログや通信記録から不正の兆候を効率的に抽出可能になっています。
また、法執行機関や企業は、クラウド環境やマルチデバイスにまたがるデジタル証拠を安全に保全する方法も整備しつつあります。さらに、データの完全性と信頼性を保ちながら解析できるため、法的手続きにおいても確実な証拠として採用され、現代の高度化したサイバー環境において不可欠な技術となっています。

デジタルフォレンジックの手順

デジタル上の不正やサイバー攻撃に遭った場合、不正の真相を究明するために、PCやサーバーに残された電子的な痕跡を科学的かつ客観的に解明することが重要です。デジタルフォレンジックは、単にデータを調べるだけでなく、証拠として法的に有効な形で保全・解析する一連の手順を踏む必要があります。
この章では、現場で実際に用いられる手順とその具体的な内容を見ていきたいと思います。

◇デジタルフォレンジックの4つのプロセス

以下の標準的な4つのプロセスを経て、電子データから証拠を抽出します。
特に、証拠保全の段階では、データが改ざんされていないことを法的に証明するため、高度な専門技術が不可欠となります。

プロセス 概要ポイント
1. 特定(Identification)調査に関連するデータ(証拠)がどこに、どのように保存されているかを洗い出す調査の範囲と対象を明確にする
2. 保全(Preservation)証拠となる電子データを改ざんを防ぐ方法(フォレンジック・イメージの作成など)で完全に複製し、保管する⚠️法廷で証拠として認められるための最も重要なステップ
3. 分析
(Analysis)
保全したデータから不正行為の痕跡(削除されたファイル、ログ、通信履歴など)を専門ツールで特定・解析する
(例:ファイルや削除データの復元からの解析、メール・チャット履歴の解析、アクセスパターン・通信解析など)
膨大なデータから真実を突き止める
4. 報告
(Reporting)
調査過程、発見された事実、結論を、法的証拠として有効な形で詳細に文書化し報告書を作成する経営層への説明や法的手続きに用いる

実例で学ぶ!国内外で起きた最新事件3選

デジタルフォレンジックは、サイバー攻撃や内部不正、情報漏洩の真相を解明するための科学的な手法ですが、実際の事件でどのように活用されているかをご存知でしょうか。
本章では、国内外で発生した事件例を3件紹介し、どのように解析が行われ、企業や組織が被害を最小化したのかをご説明いたします。

その1:不正アクセスと情報漏洩(2025年)

🚨 日本の保険会社にて不正アクセス発生
2025年4月、損害保険ジャパン株式会社のWebシステムが第三者によって不正にアクセスされたことが確認されました。デジタルフォレンジック調査により、5日間、外部から侵入した第三者が顧客情報にアクセスできる状態にあったことが判明しました。これにより、顧客の氏名、連絡先、証券番号など、約726万件の個人情報が外部に漏えいした可能性があるとされています。
再発防止策としてシステムの監視強化やセキュリティ対策の徹底を図ると発表がありました。
参照元:当社システムに対する不正アクセスの発生及び情報漏えいの可能性について

その2:偽メールによる高度な詐欺事件(2025年)

🚨 タイで10億円近くのぼる詐欺事件発生
2025年7月、タイの企業が高度な詐欺事件の被害に遭い、約6.58百万ドル(9億6,700万円相当)が不正に移動しました。タイのサイバー犯罪捜査局(CCIB)は、FBIと連携して調査を行い、電子メール解析や送金経路の追跡を実施しました。犯行グループは正規ドメインに似せた偽メールで口座情報を不正変更させ、迅速に送金を行わせていました。
デジタルフォレンジック技術により、送金後の監視映像からタイの容疑者が銀行口座から迅速に現金を引き出す様子が確認され、タイ警察は犯行グループの構成員を特定し、逮捕に至りました。さらにFBIとの国際的な協力により、犯行グループの拠点を特定し、資金の凍結と返還に成功しました。
参照元:POLICE RETURN $6.58M TO JAPANESE FIRM AFTER THAI-AFRICAN CYBER GANG BUST

その3:デジタル証拠の復元で真相把握(2025年)

🚨 削除データの復元で事実を明らかに
2025年、日本の芸能関係者(現在は引退済み)とテレビ局の元社員との間で発生した問題に関し、テレビ局は第三者委員会を設置して調査を行いました。調査には、弁護士や公認不正検査士などの専門家の他に、デジタルフォレンジック専門業者も起用されました。デジタルフォレンジック技術により、削除されていた約300件のSMSメッセージや通信履歴の復元、アクセス日時の特定、端末間のデータ転送経路の解析が行われ、起きた出来事の経緯を科学的に解明しました。
これにより、関係者は適切な法的対応や対策を迅速に進めることが可能となり、事件の真相把握に貢献しました。

会社員
社員N

デジタル証拠の復元能力とその法的効力を示す事例たちです。さらに高度化する犯罪に対応するためにも、とても必要な技術と感じます!

デジタルフォレンジックの今後と展望

サイバー攻撃や内部不正の脅威は日々高度化しており、企業や組織にとって“誰が、何を、いつ行ったのか”を科学的に解明できる力が不可欠です。デジタルフォレンジックは、AIやクラウド技術の進展とともにその重要性を増しています。
本章では、最新の技術動向や課題を交えながら、今後の展望を考えたいと思います。

①AIが暴く「隠れた不正」:解析精度の飛躍的向上

近年、AI機械学習の導入により、従来の人手解析では見落としていた不正や異常パターンを自動で検出できるようになっています。例えば、多数のログや通信履歴から通常業務では気付かない異常アクセスを特定したり、マルウェアの潜伏期間をAIが予測することも可能です。これにより、企業は被害を最小限に抑えつつ、迅速かつ精度の高い対応が可能となります。

②分散データをどう守る?:クラウド時代の証拠保全

クラウド環境が一般化する中、デジタルフォレンジックの対象範囲は物理サーバからクラウドストレージやSaaSサービスに拡大しています。データが世界中に分散しているため、従来のように物理的に押収することが困難です。これに対し、クラウドベンダーと協力してスナップショットを取得する方法や、法的に証拠能力を確保するための監査ログの活用が注目されています。企業にとって、分散データの安全な保全は今後の重要課題です。

③国境を越える証拠:国際的協力と法的整備の重要性

サイバー攻撃は国境を問わず発生するため、デジタルフォレンジックでも国際的な協力が不可欠です。
例えば、海外サーバに保管されたデータを日本の捜査機関が法的に収集する場合、各国のデータ保護法や裁判管轄の問題が絡みます。そのため、各国の法執行機関や企業間での情報共有、共通ガイドラインの策定が求められています。今後は、法的整備国際協力が、フォレンジック活用の鍵となると言えるでしょう。

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よくる質問と回答

デジタルフォレンジックはどのくらいの時間がかかりますか?

解析対象のデータ量や複雑さによって異なります。数百件程度のログなら数時間で解析可能ですが、クラウドや分散環境を含む大規模データでは数日〜数週間かかる場合もあります。

どのような事件で特に役立ちますか?

情報漏洩やランサムウェア攻撃、内部不正、誤送信や削除データの復元など、デジタル上の痕跡が残るケース全般で有効です。事件の全体像を明らかにし、再発防止策の策定にも活用できます。

今後のデジタルフォレンジックはどう進化しますか?

AI解析の高度化やクラウド環境対応の進展により、より効率的で精度の高い調査が可能になります。国際的な協力や法整備の整備も進むことで、グローバルな事件対応が迅速化すると考えられます。

まとめ

最後に、今回の記事について振り返ります。

デジタルフォレンジックは、コンピュータやスマートフォン、クラウド上のデータを科学的に収集・解析し、事件や内部不正の経緯を客観的に解明できる調査手法である。
証拠収集から解析、報告までの体系的手順により、データの完全性と信頼性を保ちながら、法的に有効な証拠として活用できることが大きな特徴である。
AIや機械学習の導入により、大量のログや通信履歴から異常パターンを効率的に抽出でき、従来の手作業では難しかった不正や攻撃の早期発見が可能となっている。
クラウド環境や複数デバイスへの対応、国際的な法規制への配慮など、証拠保全や解析には新たな課題が存在し、適切な手順やガイドライン遵守が求められる。
デジタルフォレンジックは今後、解析精度の向上やクラウド対応、国際協力の強化とともに、企業の危機管理やサイバーセキュリティ戦略における不可欠な技術としてますます重要性を増していく。
会社員
社員N

現代では、AI技術を悪用したサイバー攻撃や情報改ざんのリスクが増大しており、デジタルデータの証拠の重要性は従来にも増して高まってきています。
今後、企業や組織も正確な事実を把握し、迅速かつ法的に有効な対応策を講じることができるデジタルフォレンジックの価値をこれまで以上に感じることになりそうです。

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